『超体験型倉敷民藝を感じるエクスペリメンタルツアー』のご紹介

岡山県を代表する観光地、倉敷美観地区。江戸時代から現代にかけて建てられた白壁が美しい建物が並ぶ場所です。町並みの中心には倉敷川が流れ、船頭が手で舟をこぐ「くらしき川舟流し」は観光名物に。いわゆる定番の観光スタイルが確立されている倉敷美観地区で、民芸に着目した新しいツアーが誕生しました。では、ツアーの中身をしっかり紹介しましょう。

ツアーの見どころ

「超体験型倉敷民藝を感じるエクスペリメンタルツアー」の名がついたツアー。倉敷の民芸に着目した約4時間30分のツアーです。訪れる場所はすべて美観地区に収まっているので、移動時間が短く、その分濃い内容に。

美観地区を流れる倉敷川の様子

ツアーに参加する前に、ぜひ「民芸とはなにか」を考えてみてください。そもそも民芸が分からないひとは、日常生活にある道具や家具をどのように捉えているかを振り返ってみましょう。気に入っている点はあるか、それとも何気なく買って使っているのか。

物を見てもなにも感じない、というひとでも大丈夫。むしろ自分の感性を豊かにする大チャンスです。ツアーでは民芸に触れながら、静かに民芸品に向き合って作り手や使い手に思いを馳せる時間がたっぷりあります。

倉敷民藝館の展示品を眺める参加者の皆さん

ツアー終了時にはきっと物の見方が変わっていることでしょう。今まで気づけなかった日常生活に潜む美に気づいたり、名も知らぬ職人の商品に対する想いを考えたりするかもしれません。

ツアーでは、新しい倉敷の顔にも出会えます。意識しなくても自然と目に入る美しい白壁の町並みや映えるグルメであふれている倉敷。民芸は多くのひとにとって、意識を向けないと気づきもしないコンテンツでしょう。あえて意識して、民芸だけ見ると逆に「倉敷って民芸の町なのかな」とさえ思えるように。そう、倉敷では長い時間をかけて自然と民芸の精神が町に溶け込んでいることをツアーを通して感じるのです。

超体験型倉敷民藝を感じるエクスペリメンタルツアーが他と大きく違うのは、見どころは訪れる場所そのものだけでなく、自分の変化が味わえるところでしょう。 

なぜ倉敷で民芸なのか

ツアーの中身の紹介の前に、民芸の話を少し。日本に民芸の概念が生まれたのは100年ほど前のことです。1926年に柳宗悦(やなぎ むねよし)らによって提唱された民芸運動。それまで美術工芸品は華美な装飾が施された観賞用の作品が主流でした。無名の職人の手によって作られる日常の生活道具に「民芸」と名付け、そのなかにも美しさがあると唱えました。美に対する新しい視点や価値観が生まれたのです。

倉敷民藝館に展示されている籠

1936年には、倉敷出身の実業家 大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)の支援を受け、東京に日本民藝館を開設しました。これが日本における第一号の民藝館です。

二番目となる民藝館は、1948年に倉敷で設立されました。倉敷民藝館です。江戸時代後期の米倉を改装しました。今では古い建物を改装して再利用することは珍しくないですが、当時は町並み保存という意識は一般的ではありませんでした。倉敷民藝館は古い建物を再生し、公開した最初の事例となりました。

倉敷民藝館の外観

倉敷の歴史を語るうえで欠かせない人物、大原孫三郎は民芸運動の良き理解者だったそう。彼により、倉敷と民芸が深い関係になったことが分かったでしょうか。

ツアーで立ち寄る場所

ツアーはすべて倉敷美観地区内で完結します。移動距離は短いものの、参加者同士の交流もあり、濃い内容です。

タイムテーブル

9時30分 語らい座 大原本邸に集合

10時   融(とをる)民藝店の店主 山本さんによる解説

10時30分 倉敷民藝館の館内ツアー

11時15分 倉敷の町並みを楽しみながら向松寮へ

11時40分 民芸の食器選び

12時    巻き寿司づくり体験~実食

14時   融民藝店と倉敷民芸へ立ち寄る

ツアーで訪れる場所を紹介しましょう。

語らい座 大原本邸

ツアーの始まりは「語らい座 大原本邸」から。民芸運動を後押しした大原孫三郎も居住していた、大原家の旧住宅です。江戸時代後期の町家建築である建物で、なかに入ると外からは想像できない程の広さに圧倒されます。敷地は約700坪。一部が一般公開されています。

「語らい座 大原本邸」の外観

実際に暮らしていたので、ほんの少し生活感があるように感じます。しかし我々が想像する一般的な生活感とはかけ離れているはずです。たとえば炊事場だったところに、井戸があって水を使うのに便利だったり、かまどの真上の天井はすすけていたり。雨の日の敷地内の移動に使われていた番傘の展示などもあります。

「語らい座 大原本邸」の内観
注釈:家のなかですが、雨が降ると濡れてしまいます

建物は1795年に建築が始まり、増築を重ね現在の形に。1971年に主屋、離れ座敷、倉8棟が国の重要文化財に指定されました。

ツアーでは敷地内の奥にあるブックカフェへ。大原孫三郎の長男・総一郎(そういちろう)の書斎をイメージしたカフェスペースで壁にずらりと約2,000冊の本が展示されています。蔵書に囲まれた席に腰かけ、ツアー参加者は民芸について学びました。講師は融民藝店(とをるみんげいてん)の店主 山本尚意(やまもと たかのり)さんです。

講師の山本さんと通訳案内士の千先
注釈:写真左が山本さん

民芸とはなにかから始まり、倉敷民藝館の展示品を例に挙げ、民芸品の美に触れるものでした。「どういう意図で、想いで作られたのか。倉敷民藝館で見て感じてほしい」と山本さん。早く自分の目で民芸品を見たい!そんな気持ちになるレクチャーです。

講師の山本さんから解説を受けるツアー参加者の皆さん

倉敷民藝館に行く前に、「ぜひ離れ座敷も」と、ブックカフェの向かいの建物へ。ちょうど日本庭園の木々が紅葉していました。庭に面した部屋からの景色はまるで絵画のよう。大原家に何年も守り続けられた倉敷の景色がフレームいっぱいに広がっていました。

離れ座敷から見える紅葉真っ盛りの日本庭園

倉敷民藝館

語らい座 大原本邸をあとにし、一行は倉敷民藝館へ。立派な門をくぐると外観から芸術的な雰囲気が漂う、石畳と白壁の建物が現れます。入り口は右手側です。コの字型の2階建ての建物を縦に横に進みます。

倉敷民藝館の入口外観

まず現れるのが岡山の民芸品のエリア。緞通(だんつう)や倉敷ノッティングなど今でも倉敷市内で使われているものから、日常生活から消えてしまった立派な箪笥(たんす)や器などが展示されています。

倉敷民藝館に展示されているノッティング

岡山の民芸品エリアの隣には鳥取と島根の焼き物がずらり。ここまでの展示品はどのように生活のなかで使われていたか、だいたい想像できます。しかし岡山、鳥取、島根の出身者であっても、馴染みがある展示品は少ないでしょう。すっかり生活様式が変わってしまい、過去の産物になってしまいました。

倉敷民藝館に展示される様々な色カタチの陶器とそれを眺めるツアー参加者

倉敷民藝館の展示品は、我々にとって非日常の生活道具だからこそ、美しいと思えるかもしれません。しかし柳宗悦は、当時当たり前に使われていた生活道具のなかに美を見つけたといいます。「美」とはなにか。自分は日常に潜む美を感じられているだろうか。展示品を眺めていると、絵画のように明らかに芸術作品と分かるものだけに美があるのではない、と気づかされます。

「かごの部屋」の様子

「かごの部屋」には、世界各国のさまざまな形やデザインのかごがあります。現役で使われていた頃はどのようなものを入れていたのでしょう。木の実や野菜なのか。想像が膨らみます。展示されているものはすべて頑丈そうで、今日使って置いているだけといわれても分からないほど。デザイン性がありつつ、長持ちして、実に実用的です。

並べられた籠の民芸品

他にも衣服や家具、調理道具などの展示があり、どれも実用的で機能性を重視して作られたことが伝わります。長く使うことを想定しているのか、機能性を追い求めたためか、デザインは至ってシンプル。飽きのこないものなので、現代でも十分通用するデザインも数多くあります。

倉敷民藝館は、ただ民芸品を展示するだけでなく、訪れるひとに物に対する美や価値について見つめ直すきっかけも与えてくれるようです。

山本さんから展示品について解説を受けるツアー参加者の皆さん

倉敷民芸と融民藝店

ツアーの後半に、2つの民芸店に立ち寄ります。倉敷民芸と融民藝店です。この2店舗は30mも離れていない場所に建っています。倉敷民芸は1980年に、融民藝店は1971年に創業しました。

「倉敷民芸」の店内の様子
注釈:倉敷民芸

倉敷民芸は主に木と竹の民芸品を取り扱っています。手で編まれた山ぶどうのカゴバッグや手彫りの木の器など。木の温もりにひとの温かさも感じる品々です。プラスチックには決して出せない、一つひとつ微妙に違うことに良さがあります。どれが自分の手にしっくり来るかを見極めるのも民芸品を選ぶ楽しみのひとつでしょう。

「倉敷民芸」の店内の様子

ツアーの講師を務めた山本さんが店主を務める「融民藝店」は陶器やガラスの器を多く扱います。い草を使った地元の職人が作るカゴやワインボトル入れなども。同じ形、模様を描いていても、こちらもひとつとして同じものはありません。商品の向こうに作り手が見えてきそうです。機械で作った物にはない味わいがあります。

「融民藝店」の店内の様子
注釈:融民藝店

ツアーに参加した影響か、民芸品をこれまで以上に丁寧に見ている自分に気づきました。短時間で美や物に対しての見方が変わったようです。

店の商品を見ていると、倉敷民藝館の展示品に比べてぐっと身近に感じます。どれも日常生活で使える生活道具だからです。ただの生活道具と見るか、そのなかに美を見出すか。持ち主の心次第で生活が豊かになるのではないでしょうか。

「融民藝店」で販売されている湯呑や急須

巻き寿司づくり

順番が前後しましたが、民芸店に訪れる前に巻き寿司づくりをみんなで体験。向松寮という場所で、講師のレクチャーを受けながらの挑戦です。あらかじめ巻き寿司の具材は講師が作ってくれていました。あとは具を巻くだけです。と、口では簡単に言えますが、意外と難しい。

「巻きす」で巻かれる直前の巻き寿司

講師の原直子(はら なおこ)さんがコツを交え、巻き寿司の巻き方を教えてくれます。参加者のほとんどは巻き寿司づくり初心者。なかには酢飯を潰す勢いで巻く参加者も。でもこの少し難しいくらいがおもしろいのかもしれません。思わず笑顔も生まれる体験となりました。

左に立つ原直子さんと、右に立つせんさきゆう子さん
注釈:写真左が原さん

売り物のようにきれいに巻けたひとも、ごはんがボロッと飛び出たひとも出来栄えはさまざまですが、みんな達成感に満ちていました。

心を込めて作った巻き寿司を盛るのは民芸のお皿。自分の感性を頼りに選んだ皿に盛り付けます。巻き寿司を横一列に並べられる長方形の皿を手に取るひともいれば、自分の好きな赤色を選ぶひとも。

カットされ赤いお皿に盛り付けられた巻き寿司

盛り付け方も含め、民芸品のようにひとつとして同じものはない、オリジナルの巻き寿司が完成しました。まったく同じ具のはずなのに、作り手の個性が光るひと皿に。

カットされ黒いお皿に盛り付けられた巻き寿司

おわりに

民芸を学び、目で見て手で触れて、実際に使う体験ができる「超体験型倉敷民藝を感じるエクスペリメンタルツアー」。ただ見るだけではなく、身体全体で倉敷の民芸を感じるツアーは他にはありません。たった数時間で自分の感性が広がる感覚も味わえるでしょう。倉敷を定番とは違う角度から眺められ、新しい発見があるかもしれません。民芸に興味があるひとも、初心者も楽しく参加ができるツアーです。

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